ドローンで農薬散布を行う際、これまでは「危険物輸送」や「物件投下」に該当するため、その都度、国土交通省への承認申請を行う必要がありました。「この申請手続きさえあれば、もっと機動的に作業ができるのに……」と頭を悩ませてきた農業関係者やパイロットの方も多いはずです。
2026年4月1日、この状況を大きく変える規制緩和が施行されます。一定の条件を満たせば、これまで必須だった承認申請が不要になるという画期的な改正です。
本記事では、この改正によって「現場の何が変わるのか」という核心部分を、法的な根拠に基づきつつ噛み砕いて解説します。
核心1:「係留飛行」と同じ仕組み?法的スキームの鮮やかな転換
今回の規制緩和は、航空法第132条の86第5項に基づいています。これは「十分な安全が確保できる飛行方法であれば、個別の許可・承認を不要とする」という枠組みです。
これまで、この枠組みが適用されていた代表例は「係留飛行(紐などで繋いで飛ばす方法)」でした。今回の改正では、農薬散布などの空中散布も、新たに航空法施行規則(省令)第236条の82第1号の2に追加されることで、この「係留飛行と同じ法的ロジック」の仲間に加わることになったのです。
ただし、強調しておきたいのは、これは「完全な自由化」ではないということです。省令で定められた厳しい「一定の要件」をすべて満たした場合に限り、承認申請というステップを省略できるという構造を正しく理解する必要があります。
核心2:現場で守るべき「高度4m」と「場所」の絶対ルール
「承認不要」の恩恵を受けるためには、飛行させる「場所」と「高度」、そして「周辺環境」に厳格なルールが課されます。
- 場所の要件: 操縦者や関係者(作業の発注者を含む)が所有・管理している土地であり、かつ現に農業に使われている「農地」または「森林」の区画内に限られます。
- 高度の要件: 地表・水面、または「農作物の上端」から4メートル以下の高さであること。
- 具体例: 例えば、作物の背丈が1メートルある場合、その上端からさらに4メートル(地上から計5メートル)までの高さであれば要件を満たします。これは農薬散布の実態に即した実用的な解釈です。
- 第三者物件の不在(重要): 飛行経路下に、地上または水上の「第三者の物件(他人の車、建物など)」が存在しない状態で飛行させなければなりません。
核心3:最大のハードルは「機体認証」と「機能」のセット
場所や高度を守るだけでは不十分です。この新ルールを適用するには、機体に高度な安全機能と公的な認証が求められます。
【機体に求められるスペック】
単に「第二種機体認証」を受けていれば良いわけではありません。以下の条件をクリアする必要があります。
- 認証区分「E」の確認: 機体認証のプロセスにおいて、危険物輸送等に適した性能が確認されている必要があります。形式認証機の一覧などで、飛行の方法に「E(危険物輸送)」の記載がある機体が対象となります。
- ジオフェンス機能: 飛行範囲を制限する機能が必須です。
- フェールセーフ機能: 通信途絶などの不具合時に「リターン・トゥ・ホーム(RTH)」や「ホバリング」、「自動着陸」が作動する設定になっている必要があります。
【操縦者の要件】
- 技能証明(国家資格)を保有していること。
- 機体重量が25kg以上の場合は「限定解除」を受けていること。
- 指定された訓練を行い、操縦技量を維持していること。
※ 現在、農薬散布機の多くはまだこれらの要件を完全に満たした「認証機」として普及していません。お手持ちの機体が「形式認証」を取得しており、かつ「危険物輸送」の要件をクリアしているか、今一度スペック表を確認してください。
核心4:勘違い厳禁!「承認不要」でも「手続きゼロ」ではない
ここが実務上、最も注意すべきポイントです。承認申請が不要になっても、依然として航空法上の「特定飛行」に該当するという事実に変わりはありません。そのため、以下の義務は引き続き課されます。
- 飛行計画の通報: 事前に「いつ、どこを飛ぶか」を登録する義務。
- 飛行日誌の作成・備え付け: 飛行記録を法的に正しく残す義務。
- 立入管理措置の実施: 第三者が入ってこないよう管理する必要があります。
- 現場への配慮: 通常、補助者なしの目視外飛行などは厳しい制限がありますが、農薬散布においては「目視内」かつ「一定の要件」を満たせば、補助者を配置しない飛行についての特別な考え方が示されています。
「手続きがすべてなくなる」という誤解は、無許可飛行(航空法違反)に直結する危険な考え方です。これは「事前審査という行政コストを、操縦者の自己管理責任に置き換えた」ものと捉えるべきでしょう。
ドローンが「安全に、素早く」飛ぶ未来への第一歩
今回の改正は、ドローン法務が複雑化する中での、非常に前向きな「下地作り」であると評価できます。
これまでは、自分の所有する農地で安全に飛ばす場合であっても、画一的な承認申請が求められてきました。しかし、しっかりとした「機体認証」と「技能証明」を持つ者に対しては、よりスピーディーな運用を認めようという国の姿勢が、今回の航空法施行規則 第236条の82の改正に現れています。
「ドローンを安全に素早く飛ばすという下地が出来上がってきている」のは間違いありません。
今後、認証機体のラインナップが増えていけば、農繁期の忙しい最中に申請書類の審査を待つストレスから解放される日が来るはずです。
まずはご自身の機体の「形式認証」の項目が含まれているか、そしてジオフェンス機能が備わっているか、今のうちから確認を進めておくことをお勧めします。





