愛用のドローンを空に飛ばすだけで、わずか1グラムにも満たない重量オーバーを理由に、最大1年の禁錮刑に処される可能性があるとしたらどうでしょうか。
2026年8月25日、ニューヨーク州において2026-27年度州予算案とともに施行された「刑法第280条(Penal Law Article 280)」は、ドローンパイロットを取り巻く法的状況を一変させました。この新法は「不法なドローン使用(unlawful use of a drone)」を取り締まるものですが、その免除規定の設計により、最新機体を扱う趣味の飛行家(ホビースト)が意図せず罪に問われかねない重大な法的リスクを孕んでいます。
本記事では、最新ドローンを購入したユーザーや趣味で飛行を楽しむパイロットを直撃する、この法律の「見落とされがちな衝撃の事実」と不都合な真実を解き明かします。

DJI Mini 5 Proを直撃する「249.5gの壁」
ニューヨーク州の刑法第280条では、趣味目的(レクリエーション目的)の飛行に対する免除規定が設けられています。しかし、その重量上限は「離陸時重量0.55ポンド(約249.5グラム)以下」と極めて厳格に定められています。
ここで決定的な問題となるのが、DJIの最新フラッグシップ機「Mini 5 Pro」の存在です。DJIの公称スペック上、Mini 5 Proの重量は「249.9グラム」と表記されています。つまり、ニューヨーク州が設定した免除ライン(249.5g)をわずか0.4グラムオーバーしているのです。さらに、製造上の個体差(±4gの公差)により、実際の計測値では252〜253グラムに達する個体が存在することも報告されています。
旧モデルである「Mini 4 Pro」(標準バッテリー装着時で249g未満)であれば免除対象に収まりますが、Mini 5 Proや、724gにおよぶ「Air 3S」のような中型機は、趣味の免除枠から完全に外れることになります。
ここで「カメラ付きのおもちゃ(トイドローン)として主張すれば免れるのではないか」という疑問が生じるかもしれません。しかし、本法における玩具ドローン免除規定には、「カメラやその他の録画用センサーを搭載した機体は一切除外する」という決定的な除外条件が記載されています。そのため、空撮を楽しもうとするすべてのUAVパイロットにとってトイドローン枠による保護は期待できません。
「ニューヨーク州はMini 4 Proには適合し、DJIの最新 sub-250g フラッグシップであるMini 5 Proの手前で止まる趣味免除枠を書き上げた。」
たった0.4gという僅差によって、最新機体を所有するアマチュアパイロットは法的な保護を失うリスクに直面しています。
プロは守られ、アマチュアだけが摘発される構造
新法の適用において、商業パイロットと趣味のパイロットとの間には深刻な法的保護の格差が存在します。
第280.10条(3)の免除規定では、連邦・州・地域のあらゆるルールを遵守した商用飛行(FAA Part 107ライセンスに基づく飛行)、教育、農業、報道、インフラ点検などの「正当な目的(lawful purposes)」による飛行が明確に保護されています。プロのパイロットは、無謀な操縦で人身・財産被害のリスクを生じさせない限り、摘発される心配はありません。
一方、連邦法(49 U.S.C. 44809)に基づき趣味で飛行するパイロットの場合、249.5gの重量上限を超えてしまうと、条文内の「その他正当な目的」という曖昧な法的文言に依存せざるを得ません。趣味の空撮飛行がこれに該当するかどうかは裁判所の解釈頼みとなり、きわめて不安定な立場に置かれます。
この構造的欠陥に対し、ドローン・サービス・プロバイダー同盟(DSPA)のCEOであるVic Moss氏は、法的な防御論理を展開しています。第280.05条では「承認を与える権限があると合理的に信じられる者からの事前承認(express prior approval)」があれば禁止区域飛行の罰則から除外されると定めています。連邦法(49 U.S.C. 40103)のもとで連邦政府が全米空域に対する排他的主権を有している点を鑑みれば、正規の手続きを踏んだ飛行は法的根拠を持つと主張可能です。
具体的には、管制空域(空港周辺等)においてはLAANC(低高度承認および通知機能)を通じた飛行承認がそのまま州法上の「事前承認」として機能します。また、非管制空域(Class G空域)におけるPart 107パイロットの飛行は、連邦法に基づく強い法的権限に守られています。Moss氏はパイロットの自衛策として、次のようにアドバイスしています。
「条文全文を印刷し、自身の『ポリシーおよび手順マニュアル』に保管しておくこと。」
学校や消防署の周囲500フィートは「即・軽罪」
ニューヨーク州の新法において、不法なドローン使用と認定された場合の罰則は極めて重く設定されています。この違反は「クラスA軽罪(class A misdemeanor)」に該当し、最大364日の禁錮刑および1,000ドルの罰金が科される可能性があります。
飛行が禁止される「禁止区域(Prohibited space)」は、以下の施設の敷地境界から周囲500フィート(約150メートル)、高さ400フィートまでにおよびます。
- 学校
- 警察署・消防署
- 空港
- 刑務所
- 500人以上が集まるイベント
- 重要インフラ(Critical infrastructure)
とりわけ実務上の混乱を招いているのが「重要インフラ」の定義です。本法では情報公開法(FOIL)の定義を援用しており、「州にとって極めて重要であり、機能を失えば公衆に危険を及ぼすもの」と抽象的に規定されているのみで、対象となる具体施設一覧は公開されていません。そのため、個人パイロットがどの施設が禁止区域に該当するのかを事前に把握し、完全にマッピングすることは事実上不可能です。
警察に与えられた「強制撃墜・捕獲」のパワー
刑法第280条の導入と同時に、行政法第236条(Executive Law Section 236)に基づき、警察機関に対して強力な対ドローン(C-UAS:Counter-Unmanned Aircraft Systems)権限が与えられました。
一定の訓練を受けた警察官および平和維持官(peace officers)は、脅威とみなしたドローンを検知・追跡・捕獲・無効化(物理的撃墜を含む)する権限を行使できます。
- 非物理的(Non-kinetic)措置(ジャミング等): ドローンが禁止区域内や悪質な方法で飛行しているという「合理的疑い(reasonable suspicion)」段階で発動可能。
- 物理的(Kinetic)措置(撃墜・捕獲): 相当な理由(probable cause)があり、かつ連邦承認を受けた機器を使用する場合に限り、非物理的措置が失敗した(あるいは失敗すると予測される)際に行使可能。
この法改正の背景には、2026年3月にマーシー刑務所へドローンを用いて刃物や薬物が投下された事件など、悪質な犯罪行為に対処する狙いがあります。しかし、現場の警察官が「合理的疑い」のみで即座に介入できるようになった点は見逃せません。
同時に、この警察権限には行政上の厳しい監督枠組み(ガードレール)も課されています。
- SAFET SKIES Actと連動した資格要件: 警察官は州警察の訓練に加え、連邦の「SAFER SKIES Act」(2026年5月にNYPDがC-UAS部隊を創設する根拠となった連邦法)に基づく連邦認証を取得しなければなりません。
- 州警察による6カ月以内の運用ルール策定: 法律施行から6カ月以内に、州警察が具体的な対ドローン措置の運用ガイドラインを制定・公開することが義務付けられています。
- 48時間以内の強制報告義務: 警察機関がC-UAS権限を行使・運用した場合、そのすべての事案を48時間以内に州警察へ報告しなければなりません。
現場での権限乱用を防ぐための一定の抑止策は講じられているものの、ルールを知らずに飛行させている趣味のパイロットが警察の対ドローン措置の対象となるリスクは依然として残されています。
1月の州議会に向けた提言とパイロットの自衛策
今回のニューヨーク州の新法は、悪質なドローン犯罪を取り締まる意図がありながらも、免除規定における「重量制限の線引き」の歪みにより、DJI Mini 5 Proをはじめとする最新のsub-250g機体を楽しむ一般的なホビーストまで犯罪者になりかねない法構造を生み出してしまいました。
この問題を解決するため、専門家や業界団体からは、1月に開会する州議会に向けて「第280.00条(3)に定められたレクリエーションドローンの定義から0.55ポンドという重量上限を削除し、連邦規則(49 U.S.C. 44809)への準拠のみを免除要件とする」という法改正案が提言されています。
しかし、議会で修正案が可決されるまでの間、ニューヨーク州内でMini 4 Proより重い機体(Mini 5 Proを含む)を趣味で飛行させる場合は、学校、消防署、警察署、ボランティア消防団などの周辺500フィート圏内を「絶対的な飛行禁止エリア」として扱い、明確な事前許可がない限り飛行を避けることが唯一の自衛策となります。
あなたのドローンは大丈夫ですか?思わぬ法的トラブルや摘発を避けるため、離陸前には今一度、機体の厳密な実測重量と、飛行予定地周辺の施設環境を細かく確認しましょう。





