ニューヨークのセントラルパークやアムステルダムの夜空に、600台から1,000台ものドローンが描き出す巨大な光の彫刻。これらの華やかなドローンライトショーは、いまや「花火に代わる次世代のエンターテインメント」として世界中の観客を魅了しています。しかし、この平和的な芸術が今、かつてない危機の淵に立たされています。
その発端は、連邦通信委員会(FCC)が提案した新たな規制案です。これまで「エンターテインメント」として親しまれてきた技術が、突如として「国家安全保障」の文脈で語られ、あろうことか「軍事技術」として定義されようとしているのです。美しくシンクロする光の群れが、なぜ規制の標的となってしまったのでしょうか。

電球を運ぶドローンが「軍事用スウォーム(群れ)」に
2026年7月、FCCが発表したパブリック・ノーティス(DA 26-758)の「カテゴリー7」は、業界に激震を走らせました。このカテゴリーは本来、自律的に連携する軍事的な「スウォーム(群れ)」を定義するものですが、その具体的な対象として、以下の文言が明記されたのです。
- 「マルチUASライトショー(multi-UAS light shows)などのアプリケーションを含む」
ここには、規制当局間での深刻な「認識の乖離」が存在します。ドローンショーは現在、連邦航空局(FAA)の極めて厳格な管理下にあります。例えば、ブライトフライト社(Brightflight)が得た最新のFAA免除許可証は、5ページにわたる規定に及びます。そこには、ジオフェンスの設置、目視監視員の配置、さらには他の航空機との混信を避けるためのADS-B送信の禁止まで含まれています。
いわば「全米で最も厳格に監視された民間飛行」であるドローンショーが、FCCの机上では「軍事能力」へと塗り替えられようとしているのです。一方で、FCCの懸念が全くの空想というわけでもありません。中国のDamoda(大漠大)が昨年発表した、ワンクリックで648台を展開できる「コンテナ型システム」は、専門誌『The War Zone』によって、進化するスウォームの脅威の兆候として報じられました。しかし、平和的なショーに特化したデバイスを、その「デュアルユース(軍民両用)」の可能性だけを理由に一律に排除することが、妥当な規制 posture(姿勢)と言えるかは疑問が残ります。
標的は中国だけではない。韓国製デバイスに依存する米国の現実
今回の規制案は「中国製排除」を旗印に掲げていますが、その実態は同盟国の技術、ひいては米国の投資家や中小企業を直撃する内容となっています。現在のドローンショー業界は、実は韓国のUVify(IFO)という単一のプラットフォームに大きく依存しているからです。
- UVify IFOの市場シェア: 米国のドローンショー企業の約70%が採用。世界市場の約80%を占める。
- 米国内でのプレゼンス: UVifyはシアトルに本社、サンフランシスコに販売拠点を置く。
- 矛盾する投資状況: 2026年2月には4200万ドル(約60億円)ものシリーズB資金調達を完了しており、米国資本も深く関与している。
しかし、機体が韓国で製造されている以上、今回の「外国製(foreign-produced)」という広範な定義に該当し、規制対象となります。テキサス州のSky ElementsやデンバーのBrightflightといった米国企業が、信頼できる同盟国の技術を利用しているにもかかわらず、中国メーカーと同様の「Covered List(対象リスト)」の枠組みで制限を受けるという不条理な現実に直面しています。
キンバル・マスク氏の企業が抱える「供給網のねじれ」
かつてIntelのドローン部門であった資産を買収して設立された「Nova Sky Stories」の事例は、グローバル・サプライチェーンの複雑さを象徴しています。創設者のキンバル・マスク氏は、自身の製造戦略についてこう語っています。
「サービスを提供する市場で製造できなければならない。」
同社は米国、欧州、中国に工場を分散させていますが、今回のFCC提案は「製造国」を基準としています。つまり、米国企業の所有であっても、中国工場で生産された機体は、世界シェア36.42%を誇るDamodaや24.12%のHighGreat(高巨創新)といった中国メーカーの製品と同じ「Covered List」に載ってしまうのです。ブランドや資本がどこにあるかではなく、工場の所在地が「安全保障上のレッテル」を決定するというサプライチェーンのねじれが、米国を代表する起業家の足を引っ張る形となっています。
ビジネスの「緩やかな死」を招く部品供給の断絶
今回の規制案には「180日の猶予期間」が設けられており、既存の機体の飛行自体が直ちに禁じられるわけではありません。しかし、これは業界にとって「緩やかな死の宣告」に等しいものです。
FCCの定義する「マーケティング」の禁止対象には、広告、流通、販売、そして「リース」までが含まれます。ドローンショーのビジネスモデルは、常に機体を追加してショーの規模を拡大し、衝突や老朽化で失われた機体を補充する「リプレースメント(交換)」によって成り立っています。
180日の猶予期間が終了し、新しい機体や交換用部品の輸入・流通が止まれば、どうなるでしょうか。数百台規模を維持しなければならないフリート(艦隊)は、1台、また1台と故障するたびに目減りしていきます。補充ができない以上、ビジネスはやがて収縮し、消滅せざるを得ません。この規制は、既存のドローンを空から引きずり下ろすのではなく、将来の供給網を断つことで業界を「窒息」させるものなのです。
9月2日の締め切りと、問われる「安全」の定義
業界団体「Creative Skies」は、重大な警告を発しています。今回のパブリックコメントの対象となっている「PS Docket 26-189」という公的記録が、もし防衛資金提供を受けた論者の意見だけで埋め尽くされてしまえば、FCCはその一方的な記録に基づいて規制を採択することになります。
ドローンを実際に組み立て、飛ばし、エンターテインメントとして成立させている人々の声が届く期限は、9月2日に迫っています。
ドローンショーは、火災のリスクがある花火に代わる、より安全でクリーンな選択肢として普及してきました。厳しいFAA規制を遵守し、高度に管理された運用を行ってきたこの革新的な産業を、「軍事技術」という過剰なラベル付けで犠牲にすることが、果たして真の国家安全保障につながるのでしょうか。
安全保障という名の下で、私たちが夜空に見る夢までをも規制し尽くしてしまわないか。その是非を問うための時間は、残りわずかです。