現代の戦場は、数千、数万単位で投入される安価な自爆型ドローン、いわゆる「消耗性システム(Attritable Systems)」によって、その交戦規定が根底から書き換えられています。米国国防総省はこの「質より量」へのパラダイムシフトを完遂すべく、総額11億ドル(約1,600億円)規模の野心的な「Drone Dominance Program(ドローン優位プログラム)」を加速させています。その中核となる実機試験「Gauntlet II(ガントレットII)」の結果が公開され、次世代の軍事サプライチェーンを担う真の「勝者」と、厳しい現実に直面した「敗者」の姿が浮き彫りになりました。

Neros Technologies:唯一「二冠」を達成した実力と「生産能力」
今回の試験で、国防アナリストの間で「ゴールドスタンダード」としての地位を不動のものにしたのが、カリフォルニアを拠点とするNeros Technologiesです。同社は全19社が参加した熾烈な競争の中で、唯一「近接戦闘(CQB)」と「ディープストライク(深部攻撃)」の両リーダーボードに名を連ねるという快挙を成し遂げました。
- 圧倒的な試験スコア: 近接戦闘で88.1ポイントを獲得して首位に立ち、ディープストライクでも69.8ポイントで3位にランクイン。
- 「生産能力」という最強の武器: ペンタゴンが今回最も重視したのは、機体性能だけでなく、それを確実に供給できる「生産能力(Production Capacity)」です。Nerosは前回のGauntlet Iで発注された2,400機のArcherドローンを7月までに完納し、陸軍向けのPBASキットも予定より早く納品。このデリバリー実績こそが、同社を勝者たらしめている最大の要因です。
- バックグラウンド: ドローンレースのチャンピオンから国防軍需産業へと転身した創業者ソレン・モンロー=アンダーソン氏の知見は、戦場での実用性と、軍が求める厳格な納期遵守という二律背反を見事に統合しています。
Skycutterの急落が示す「軍事コンペの過酷さ」
前回(Gauntlet I)で99.3点という驚異的なスコアを叩き出し、圧倒的な技術力を誇示した英国のSkycutterでしたが、今回は一転して軍事調達の厳しさを象徴する存在となりました。
- 衝撃のランクダウン: ディープストライク部門で66.6ポイントの4位に沈み、得意としていた近接戦闘ではトップ5圏外という結果に終わりました。
- カタログではなく競争: 一度の勝利が将来の契約を保証しないのが、現在のペンタゴンの姿勢です。ソース内では、この状況を次のように評しています。
“A competition where the champion can lose is a competition, not a catalog.”(チャンピオンが敗北しうる競争こそが本物の競争であり、単なるカタログショッピングではない)
- 露呈した供給リスク: Skycutterは3月の発注分について「出荷も増産も始まっていない」と報じられており、この生産の遅れが評価に影を落とした可能性は極めて高いと言わざるを得ません。
Perennial Autonomyが狙う「盾と矛」の独占
元Google CEOのエリック・シュミット氏が率いるPerennial Autonomyは、ディープストライク部門で80.1ポイントを獲得し、首位の座を射止めました。
- スケールメリットの実現: 同社はすでに5億ドル規模の「対ドローン(カウンタードローン)」契約を締結しており、その実力は折り紙付きです。現在進行中の紛争(イラン戦争の初期段階)において、米陸軍は同社の「Meropsインターセプター」を13,000機、1機あたり約15,000ドルという価格で一気に調達しました。
- 戦略的優位: 防御用の迎撃ドローン(盾)で巨額契約を勝ち取りつつ、今回攻撃用のディープストライク(矛)でも首位を獲得したことで、同社はペンタゴンの無人機戦略における不可欠なサプライヤーとしての地位を完全に固めました。
Hyperscale:公表データゼロで2位に食い込む正体不明の実力者
ディープストライク部門で70.9ポイントを獲得し、2位に食い込んだHyperscaleは、今回のコンペティションにおける最大の「ワイルドカード」です。
- 正体不明の強者: 創業者、所在地、機体スペックすら非公開。ステルスモードのまま試験に参加し、既存の有名企業を次々と抜き去りました。
- 実力至上主義の徹底: 公開情報が皆無であるにもかかわらず、国防総省は同社に対して約7,000機のドローンを発注する準備を進めています。これは、企業の知名度や広報戦略よりも、試験現場での「生の結果」を優先するペンタゴンの実力主義を象徴しています。
15kmの壁を突破した米国の供給網
Gauntlet IIの結果は、米国のドローン産業が短期間で劇的な技術進化を遂げたことを証明しました。これは単なる飛行試験ではなく、統合ミッションを完遂する「兵器システム」としての成熟を示しています。
- 飛躍的な性能向上: 合計1,858回ものソーティ(出撃)が行われ、23のプラットフォームが試験されました。前回のGauntlet Iでは10kmに到達した機体はわずか24%でしたが、今回は長距離評価を受けた11の全プラットフォームが、強力な電子戦(EW)環境下で15kmの到達に成功しました。
- 真のデカップリング: 2026年8月から適用された、中国製のモーターやバッテリーの使用を禁じる厳しい規制(covered-country sourcing rule)をクリアした上での成果です。
- エコシステムの広がり: 試験ではNorthrop Grummanを含む5社の lethality provider(殺傷能力提供者)による実弾ペイロードが搭載されました。DIU(国防イノベーション部門)は、今回の機体が前回よりも「安価で高性能、かつ米国主導のサプライチェーンに密接に関連している」と断言しています。
ウクライナ勢と上場企業の苦戦
戦場での経験が、必ずしも米軍の調達基準に合致するとは限らないという現実も浮き彫りになりました。
- 期待外れのウクライナ勢: UDDやStellarionといった実戦経験豊富なウクライナ企業4社は、いずれもトップ5入りを逃しました。前線のフィードバックがあっても、米軍が求める厳格な脱中国サプライチェーンへの対応や、わずか5週間で120機のプロトタイプを納品するというロジスティクス上の制約が、高い壁となったようです。
- 市場の冷酷な審判: 米国の上場企業であるRed Cat(Teal)やOndas(Ascent)もランク外となりました。特にRed Catの株価は、この結果を受けて24%も下落。ペンタゴンのコンペ結果が、企業の時価総額にダイレクトに影響を与える「ハイステークス・ゲーム」であることを再認識させました。
2027年、20万機の無人機が舞う未来へ
ペンタゴンの野心はさらに拡大を続けます。来月には爆撃型ドローンに特化した「Gauntlet 2.5」が開始され、2027年までに20万機以上の小型ドローンを配備するという目標に向け、調達レースはさらに激化していきます。
今回の試験結果は、軍事産業のパラダイムシフトを鮮明にしました。
- 「実績と生産性」のNeros
- 「資本と全方位戦略」のPerennial
- 「純粋な実力」のHyperscale
もしあなたが戦場の司令官なら、どのドローンを兵士に託しますか? そして、この「サプライチェーンの脱中国化」という極めて困難な挑戦は、米国のドローン産業を真に最強の軍事基盤へと変貌させたのでしょうか。その真価は、来たるGauntlet 3でさらなる試練にさらされることになるでしょう。





